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2025.12.03

高齢者とeスポーツ──新たな健康と交流のかたち


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1. はじめに:なぜ今、高齢者とeスポーツなのか?

「ゲーム」と聞くと若者の趣味と思われがちですが、近年、eスポーツの世界に高齢者が参加する動きが注目を集めています。その背景には、健康寿命の延伸、孤立の解消、認知症予防など、現代の高齢社会が抱える課題への新たなアプローチがあります。ゲームを通じて手軽に脳を活性化でき、仲間との交流も自然に生まれる点が、大きな魅力となっています。また、インターネット環境の普及や機器の使いやすさの向上も、高齢者がデジタル社会へ参加する後押しとなっています。
実際、2024年の調査では、シニア層におけるeスポーツの認知度は79.7%に達し、特に「脳の活性化や認知機能低下の予防」効果に魅力を感じるという回答が66.3%に上りました。 さらに、日本のeスポーツ市場は2025年には217億円に達すると予測されており、シニア向けの取り組みも拡大しています。
eスポーツは「楽しい」「つながる」「元気になれる」新時代のライフスタイルとして注目されているのです。

2. 高齢者でも楽しめるゲームとは?

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eスポーツと聞くと、高度な反応速度や複雑な操作が必要なイメージを持たれるかもしれません。
しかし実際には、シンプルなルールと直感的な操作で楽しめるゲームも数多く存在します。
たとえば、パズルゲームやボードゲーム風の対戦型ゲーム、音楽に合わせてボタンを押すリズムゲームなどは、視覚と聴覚を刺激しながら、自然に集中力や判断力を鍛えられるため、高齢者にも人気です。また、麻雀や将棋などの伝統的な頭脳ゲームがデジタル化されたタイトルもあり、親しみやすく、昔ながらの楽しみ方を最新の技術で再発見できます。
eスポーツの魅力は、勝敗だけでなく、「楽しみながら交流できる」ことにあります。ゲームがもたらす笑顔や会話が、日常に彩りを添えるのです。

3. 高齢者がeスポーツを始めるメリット

3-1. 認知症予防・脳の活性化

eスポーツが高齢者にもたらす最大のメリットの一つが、認知機能の活性化です。ゲームをプレイする際には、目で情報を捉え、判断し、手を動かして操作するという一連の動作が求められます。これはまさに「脳の筋トレ」とも言える活動です。
特に、脳の前頭前野(判断力や注意力)、側頭葉(記憶)、海馬(空間認識)など、加齢とともに衰えやすい部位が広範囲に刺激されます。また、ゲームのルールを理解し、戦略を練る過程では、論理的思考力や短期記憶を活発に活用するため、総合的な脳機能の維持にもつながります。
近年では、軽度認知障害(MCI)の予防を目的としたeスポーツの研究も進み、実際に注意力や遂行機能が改善したという結果も報告されており、科学的根拠も蓄積されつつあります。
eスポーツは、「楽しい」という感情と「脳の活性化」を両立できる、非常に稀有な活動であり、認知症予防の新たな選択肢として期待が高まっています。

3-2. 運動機能の維持と向上

高齢になると、関節の可動域や筋力、バランス感覚の低下が日常生活に支障をきたすリスクとなります。eスポーツは、こうした身体機能の維持にも効果が期待できる点が見逃せません。
一見、座って行うイメージが強いeスポーツですが、実際には指先の巧緻性、反射神経、姿勢制御など、多様な運動機能を自然と使います。とくに、タイミングを図る動作や連続的な操作は、リハビリに近い要素を含んでおり、ゲームをしながら運動療法的な効果が得られる点が特徴です。
さらに近年は、全身を使って操作する「体感型ゲーム」も充実しており、画面の中の動きに合わせて立ち上がったり、腕を振ったりすることで、軽度な有酸素運動やバランス感覚の向上にもつながります。こうした運動は、転倒予防や筋力の維持にもつながり、日常生活をより安全で快適に過ごす手助けとなります。
楽しみながら体を動かせるeスポーツは、運動不足になりがちな高齢者にとって、無理なく続けられる"新しい健康習慣"とも言えるでしょう。

3-3. 社会参加の促進

高齢者にとって社会参加は、心身の健康を保ち、日々の生活に張りを持たせるうえで欠かせない要素です。
しかし、退職や身体的制限、家族構成の変化などにより、他者との接点が減り、「孤独感や無力感」を抱える人も少なくありません。こうした社会的孤立は、うつや認知症などのリスクとも深く関係していることが、国内外の研究で示されています。
そのような中で、eスポーツは高齢者が自然なかたちで人とつながる手段として注目を集めています。チームで協力してプレイしたり、オンラインで全国のプレイヤーと交流することで、"ゲームを通じたコミュニケーション"が生まれやすく、共通の趣味を介した対話は、孤独感の軽減にもつながります。
さらに、地域のeスポーツ大会や交流イベントに参加することで、「地域との接点」や「達成感」、「自己効力感(自分にもできるという感覚)」得ることができ、こうした実感は、社会の一員としての意識を高め、精神的健康の維持にも大きく貢献します。
eスポーツは、世代や立場を超えて人をつなぐ"共通言語"であり、高齢者が新たな社会参加を実現する「現代型の交流ツール」として、大きな可能性を秘めているのです。

3-4. 異世代間コミュニケーションの促進

eスポーツがもたらす交流は、同世代間にとどまりません。高齢者と若者という異なる世代をつなぐ、新たなコミュニケーションツールとしても大きな可能性を秘めています。
高齢者が社会の中で自然に役割を持ち、家族や地域と深く関わるきっかけとして、eスポーツは重要な役割を果たしつつあります。

家族や孫との交流が生まれる仕組み

高齢者と若年層の間では、「話題が合わない」「会話が続かない」といった"世代間ギャップ"がしばしば課題になります。特にデジタル機器の普及により、若者と高齢者の間で日常的な接点が薄れがちになっているのが現実です。
その中で、eスポーツは年齢差を超えて楽しめる「共通言語」となります。たとえば、孫が得意なゲームを祖父母に教えたり、一緒にチームを組んでプレイしたりすることで、年齢や世代を超えた信頼関係や相互理解が自然と育まれていきます。
動物を育てるシミュレーションゲームや、パズル・リズム系のゲームなど、操作がシンプルで親しみやすいタイトルは特に人気です。
「今度はこのゲームを一緒にやろうね」という小さな約束が、新たな交流サイクルを生み出し、会話の頻度や質を高める要因になります。ゲームを通じて共有される笑顔や驚き、達成感は、単なる娯楽を超え、家族の絆を深める貴重な時間をつくるのです。

学校・地域・介護施設での事例

異世代間コミュニケーションの広がりは、家庭内だけにとどまりません。近年では、地域社会や教育現場、介護福祉の領域でもeスポーツを活用した異世代交流の取り組みが全国的に展開されています。

たとえば、熊本県美里町では、小学生と70歳以上の高齢者が「ぷよぷよ」で対戦。小学生が高齢者向けに遊びやすいルールを考えるなど、プログラミング教育と世代間交流を結びつけた取り組みが行われました。※参考:朝日新聞GLOBE+
神奈川県横浜市 富岡東地域ケアプラザでは、地域住民と高齢者がeスポーツを通じて交流。事故や怪我の心配が少なく、安全に世代を超えて楽しめる場として注目されています。また、群馬県太田市「ぐんまeスポーツフェスタ」では、地域イベントとして高齢者も参加し、若者と一緒に競技を楽しむことで地域活性化につながっています。
※参考:タウンニュース群馬県ホームページ
介護施設においても、eスポーツを導入が進んでおり、認知機能の維持やメンタルヘルス改善に効果があるとされています。また、入居者同士の会話や家族とのコミュニケーションが増え、新しい交流のきっかけにもなっています。

これらの事例はすべて、eスポーツが単なるゲームにとどまらず、世代や距離を超えて人をつなぐ「社会的プラットフォーム」として機能し始めています。 楽しみながら交流を深める──この新しい文化が、今まさに日本各地で芽吹きつつあるのです。

4.高齢者がeスポーツを始めるためのステップ

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4-1. 初心者向けのゲーム選び

「どんなゲームから始めたらいいの?」と悩む方も多いかもしれませんが、ご安心ください。高齢者でも楽しめて、操作もシンプル、かつ健康や交流にもつながるゲームはたくさんあります。ここでは、特におすすめのタイトルを、特徴とともにご紹介します。

ゲーム選びのポイント

・操作がわかりやすい:複雑なコントローラー操作が不要なもの

・ルールがシンプル:短時間で理解でき、すぐに楽しめる

・対話が生まれる:家族や仲間と一緒にプレイできる

おすすめゲーム一覧

ゲームタイトル 特徴 推奨プレイ環境
脳トレ系パズル(例:Brain Age) 記憶力や計算力を楽しく鍛える ニンテンドーSwitchなど
太鼓の達人 音楽に合わせてタイミングよく操作。リズム感UP ゲームセンター・家庭用
Wii Fit 全身を使って体を動かす。運動不足の解消に Wii、Switch
デジタル将棋・麻雀 昔ながらの遊びをデジタルで。頭脳戦も楽しめる タブレット・PCなど
どうぶつの森シリーズ 自然な世界でのんびり暮らす。孫との共通話題にも最適 ニンテンドーSwitch

操作性や内容に慣れるまでは、ご家族のサポートも受けながら進めるのが安心です。ゲームを通して、「やってみようかな」が「またやりたい!」に変わる瞬間が、きっと訪れるはずです。

4-2. 家族や介護施設でのサポート

高齢者がeスポーツを安心して楽しむためには、家族や介護施設など周囲のサポートが欠かせません。初めてゲーム機に触れる方にとっては、電源の入れ方から操作方法まで、すべてが新しい体験です。そのため、最初の段階ではご家族が一緒にプレイしたり、ゲームの準備をサポートしたりすることで、不安を減らし、楽しさを共有できます。
また、介護施設では、レクリエーションの一環としてゲームを導入している例も増えており、スタッフによるサポートや設定済みの環境が整っていれば、利用者もスムーズに参加できます。特に「みんなで楽しむ」場があることが継続へのモチベーションになりやすく、習慣化にもつながります。家族や職員との「つながり」が、eスポーツをより豊かな時間に変えてくれるのです。

4-3. 必要な機材と環境整備

高齢者が快適にeスポーツを楽しむには、無理のない環境づくりと適切な機材選びが大切です。

1. 基本的な機材

  • ゲーム機
    家庭用ゲーム機:操作が比較的簡単で、テレビに接続して手軽に楽しめます。
    タブレット端末:タッチ操作で直感的にプレイできるゲームが多く、持ち運びにも便利です。
  • パソコン:本格的なeスポーツを楽しみたい場合は、ゲーミングパソコンがおすすめです。
  • 周辺機器
    コントローラー:ゲーム機に合わせて選びます。
    マウス:パソコンでプレイする場合に必要です。
    モニター/テレビ:画面の大きさや解像度も考慮しましょう。
  • インターネット環境:オンライン対戦を楽しむ場合は、安定したインターネット回線(光回線など)が必須です。
  • ゲームの種類によっては、特別なコントローラーや補助器具が必要になる場合があります。

2. 機材選びのポイント

  • 操作に慣れるまでは、ボタン数が少ないものや、タッチ操作ができるものを選ぶとスムーズです。
  • ご自身の目や、手の状態に合った機材を選びましょう。

3. プレイ環境の整備

  • 明るく静かな部屋で、姿勢よく座れる椅子を用意しましょう。
  • 画面との距離を適切に保てる配置にしましょう。
  • 長時間にならないよう、時間を区切る工夫をしましょう。
  • プレイ中の、体調の変化に、気を配りましょう。
  • 高齢者向けのeスポーツ教室やイベントも増えています。

安全で快適な空間があれば、高齢者でも無理なく、楽しみながらeスポーツに取り組めます。

5. 導入事例:高齢者とeスポーツのリアルな現場から

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5-1. 国内での高齢者eスポーツ成功事例

日本全国で、高齢者がeスポーツに参加する事例が広がりを見せています。ゲームを通じた健康づくりや社会参加を促す取り組みは、地域や施設ごとに個性を持ちながら成果を挙げています。

●秋田県・MATAGI SNIPERS

60歳以上のメンバーで構成され、平均年齢67歳という「シニアeスポーツチーム」が活躍しています。PCやキーボード、マウスを使い、ITリテラシー向上も図った活動が報じられています。
活動の目的は、操作技術の習得だけでなく、「孫に尊敬される存在でありたい」という理念を掲げ、仲間と目標を共有する過程そのものが継続の原動力となっています。特に、チームでの協力や戦略の構築を通じて、認知機能や判断力の向上が期待されています。さらに、定期的な練習や大会参加により、生活にリズムが生まれ、日常生活の質の向上にもつながっています。
高齢者が「挑む」「つながる」「役割を持つ」ことは、認知機能や判断力の維持、社会参加意欲の向上に結び付き、地域社会における高齢者の新たなロールモデルとして注目されています。
※参考:公式サイト:マタギスナイパーズ

●愛知県内・広域連携によるシニアeスポーツ促進プロジェクト

愛知県では、複数の自治体や団体が連携し、高齢者を対象としたeスポーツの導入が進められています。
代表的な取り組みとして、大府市がプロeスポーツチームと連携して開催する「シニア向けeスポーツプロジェクト」では、60歳以上を対象にした体験型のイベントが行われており、ゲームを通じて健康維持や地域交流、デジタル参加のきっかけづくりが促されています。eスポーツを「健康・交流・生活活動」の3本柱で捉える方針のもと、自治体・民間企業・プロ団体の連携による産官民協働モデルとして注目を集めています。
また、愛知県全体で開催された「第52回愛知県老人スポーツ大会」では、eスポーツ体験ブースが出展され、和太鼓のリズムゲームやドライビングゲーム、VR体験などが提供されました。高齢者の新たなレクリエーションとしてデジタルゲームが導入され、参加者は「動きながら楽しめる新鮮な体験」として高評価を寄せています。
さらに、「ねんりんピック鳥取2024」の愛知県予選会にあたるeスポーツ体験イベントでは、Nintendo Switch の『太鼓の達人 ドンダフルフェスティバル』を用いた世代間交流型の大会が開催され、高齢者とその家族が一緒にプレイしながら、笑顔と一体感を共有する姿が報告されました。
これらの事例は、eスポーツが高齢者にとって「デジタル技術に親しむ」「世代を超えて交流する」「心身をいきいきと保つ」ための有効な手段となりつつあることを示しています。
※参考:CTCシニアライフ総研愛知eスポーツ連合

●GeeSports大会(全国規模)

2025年10月1日、「2025 大阪・関西万博」会場で開催された、65歳以上3名1組の6チームによるシニアeスポーツ大会です。最高齢94歳の選手も出場しました。
使用ゲーム『Gerogue(ジェローグ)』は、直感操作で誰でも参加できる設計。大会ではプロチームとのエキシビションマッチも行われ、高齢者参加者にとって「自分も場に立てる」という実感を得る機会となりました。これにより、年齢を重ねてもチャレンジできる姿が可視化され、社会的にも注目されるイベントとなっています。
※参考:デジタルハーツ

5-2. 介護施設・地域コミュニティの取り組み

介護現場や地域コミュニティにおいても、eスポーツを活用した先進的な取り組みが増えています。これらは、eスポーツが「福祉」や「地域づくり」と深く関わっていることを実証する実践例です。

●静岡県・高齢者施設でのeスポーツ導入

静岡県沼津市を拠点とする 医療法人友愛会 が運営する高齢者施設群では、レクリエーションのマンネリ化や参加率低下を課題とし、2021年からeスポーツを導入しました。施設利用者が、ゲーム機を使った対戦型・協力型などの "遊び" を通じて、利用者同士の交流を再構築し、認知機能や社会参加意欲の喚起につなげています。職員が「健康ゲーム指導士」の資格を取得し導入体制を整えた点も注目されます。※参考:HELPMAN JAPAN

●富山県・県立大学連携「高齢者向けeスポーツ体験会」

富山県立大学 が中心となり、富山県厚生部高齢福祉課と共に「通いの場(地域交流施設)」で高齢者を対象にeスポーツ体験会を実施。2019年から開始され、『ぷよぷよ』・『太鼓の達人』・『グランツーリスモ』などを用い、身体・判断・交流を同時に刺激するプログラムとしています。県内3市5箇所など複数地域で実施し、地域包括ケアの一環として定期化しています。※参考:LIFULL 介護

●全国規模・高齢者施設対抗オンラインeスポーツ大会

一般社団法人 ケアeスポーツ協会 が主催する大会では、高齢者施設の利用者が年齢60代〜90代で参加し、ゲームタイトル 鉄拳8 を使って施設間でオンライン対戦を行っています。勝敗を伴うゲーム体験が、参加者の意欲を刺激し、認知・操作スキルの維持や仲間との関係構築に貢献していると報じられています。※参考:Game*Spark

5-3. 海外のユニークな導入例

高齢者とeスポーツの取り組みは、日本国内にとどまらず、世界各地で多様に広がりを見せています。国ごとの社会背景や制度に合わせて工夫された導入方法には、それぞれの地域ならではの特色があり、eスポーツが健康・交流・教育の分野で活用されていることがうかがえます。以下では、注目すべき4カ国の事例をご紹介します。

●アメリカ・シニアeスポーツリーグ(SEL)

アメリカでは、高齢者施設をオンラインでつなぎ、70代〜90代のシニア世代を対象とした「シニアeスポーツリーグ」が定期的に開催されています。人気タイトルには「マリオカート」や「Wii Bowling」など、操作が直感的で親しみやすいゲームが選ばれており、参加者が無理なく取り組めるよう工夫されています。
さらに、試合後にはビデオ通話を通じて参加者同士が感想を語り合う時間が設けられ、"対戦"だけに留まらず"交流"の機会が大切にされている点も特徴的です。競技としての勝ち負けよりも「誰かとつながること」に価値を置いており、この仕組みが社会的孤立感の軽減や心理的健康の向上に寄与しているとして、医療・福祉の現場でも注目を集めています。

●スウェーデン・自治体主導の「デジタル世代間交流プログラム」

スウェーデンの Silver Snipers は、60代~80代で構成された世界初級ともされるシニア専用のeスポーツチームです。平均年齢67歳という報道もあり、PCゲーム『Counter Strike: Global Offensive(CS:GO)』などで競技に参加しています。このチームの活動は、「高齢者=ゲームをしない」という固定観念への挑戦であり、ゲームを通じた仲間づくり・生きがいづくりのモデルとして国際的にも紹介されています。※参考:Lenovo

● シンガポール・シニア向けeスポーツプログラム

シンガポールでは、高齢者を対象にした eスポーツ/エクササイズゲーム(Exergaming)プログラムが実施されています。シニア向けの部門では、ゲームを「楽しみながら心・体・社会性を刺激する手段」として位置づけており、「Seniors Go! Esports」という講座も開設されています。高齢者がゲームを通じて新しい趣味を持ったり、仲間と楽しんだりすることで、孤立防止・リハビリ的効果が報告されています。
※参考:TODAY

●韓国・ソウル市「スマートシニアセンター」でのゲーム導入

韓国・ソウル市のヤンチョン区にあるスマートシニアセンターでは、高齢者向けにデジタルゲームやタッチパネル型机(スマートテーブル)を導入しています。ゲームを楽しみながら、認知機能・判断力の維持を図る目的で、「高齢者がゲーム機を使いこなせる環境づくり」が進められています。
ゲームをきっかけに自然と会話が生まれ、施設利用者同士・家族とのつながりの拡大にも寄与していると報じられています。※参考:Korea Joongang

こうした海外の事例から見えてくるのは、eスポーツが世界的に「高齢者のQOL(生活の質)向上」に資する多面的なツールとして活用されているという事実です。
単なる娯楽ではなく、人とのつながりを生み出す交流手段として、また、新しい技術に触れながら自己効力感を育む学びの場として、さらには適度な刺激と楽しさによって心身を活性化させる健康促進のツールとして、eスポーツは多様な機能を内包しています。

今後の日本でも、こうした先進的な海外の取り組みに学びつつ、地域の文化や高齢者のニーズに合わせた柔軟な導入が求められます。eスポーツは、世代を超えた新しい交流と、生きがいづくりを支える「社会のインフラ」として、その可能性をさらに広げていくでしょう。

6. 高齢者eスポーツの課題とその解決策

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6-1. 身体的・技術的なハードルと対処法

高齢者がeスポーツを始める際、多くの方が感じるのが「操作が難しそう」「目や手がついていかないかも」といった不安です。実際、視力の低下や関節の動きづらさ、反射速度の衰えなど、年齢による身体的変化は避けられません。しかし、それをカバーする工夫も豊富にあります。
たとえば、画面の文字を大きくする設定や、反応速度に左右されにくいゲームの選定、ワイヤレスコントローラーやタッチ操作など、操作負担を軽減するツールの活用が有効です。また、難易度を調整できるゲームや、身体を大きく動かす必要のないタイトルから始めるのも安心です。「できない」ではなく「できる方法を探す」──その視点が、継続と楽しみにつながっていきます。

6-2. デジタルリテラシーの克服方法

「機械は苦手だから...」という声は、高齢者の間でよく聞かれます。しかし、eスポーツを始めるにあたって、すべてを一人で理解する必要はありません。最初のステップは、"わからないことを気軽に聞ける環境づくり"です。
家族や介護職員、地域のボランティアが操作をサポートするだけで、安心感はぐっと高まります。また、最近では高齢者向けに特化した「スマホ・ゲームの使い方講座」や、マンツーマンで学べるITサポートサービスも増えています。 さらに、ゲームそのものが「学びながら慣れる」仕組みを備えていることも多く、ゆっくり進められる設計が魅力です。少しずつでも触れる機会を増やすことで、苦手意識は自然と薄れていきます。

6-3. 健康管理と継続参加の工夫

eスポーツを長く楽しむためには、心身の健康を守ることが何より大切です。長時間のプレイによる目や肩の疲労、集中しすぎによるストレスなどには注意が必要ですが、ちょっとした工夫で無理なく続けることができます。
まず基本は、「適度な時間配分」。1回のプレイは20~30分程度にとどめ、こまめに休憩を取りましょう。次に、座る姿勢や椅子の高さの調整も効果的で、身体への負担を軽減できます。
また、ゲーム後に軽くストレッチをする習慣をつけると、リラックスにもつながります。さらに、日々の体調を記録しながら「今日は元気だからプレイしよう」と自分でコントロールする意識も重要です。
「楽しく、無理なく、続ける」ことが、eスポーツを健康的な日課にするコツです。

7. まとめ:eスポーツを活用した充実したシニアライフ

スポーツは、単なる娯楽にとどまらず、高齢者の生活に新たな「楽しみ」「つながり」「生きがい」をもたらす存在として、静かに浸透しています。ゲームを通じて脳を刺激し、体を動かし、人と交流する──そのすべてが健康的な老後を支える大切な要素です。
家族との共通の話題が生まれ、地域や施設での参加の場が広がり、そして「やってみたい」「もう一度挑戦したい」という前向きな気持ちが、日常に活力を与えてくれます。
さらに、今後のテクノロジーの進化によって、eスポーツはますます高齢者にとって身近な存在になるでしょう。バリアフリー設計、音声操作、AIサポート機能の充実など、誰もが参加できる環境づくりが加速しています。
人生100年時代、年齢にとらわれず、楽しく、健やかに過ごす選択肢として──eスポーツは、確かにその一歩を支える新しい力となっています。

経営学部 准教授 堀川 宣和

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