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星城大学の学びがわかる

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2025.11.28

eスポーツ×教育!未来を変える学びのカタチ


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1.eスポーツとは?成長を続ける新時代の学び

1-1. eスポーツの定義と特徴

eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)は、コンピューターゲームや家庭用ゲーム機を使って行う対戦型の競技です。FPSや格闘ゲーム、スポーツゲームなど多様なジャンルがあり、戦略性や反射神経、判断力が試されます。
従来のスポーツと異なり、身体的な条件に左右されにくく、年齢や性別に関係なく公平に競い合える点が特徴です。さらに、オンライン環境の発達により、世界中の選手とリアルタイムで対戦・交流が可能になりました。視聴者向けのライブ配信も盛んで、観戦スポーツとしての魅力も高まり、急速に競技性と社会的認知を高めています。

1-2. eスポーツの市場規模と世界的な成長の背景

eスポーツは今や世界中で注目される成長産業となっており、2024年にはその市場規模が20億ドル(約3000億円)を超えると予測されています。国際大会の開催、プロチームの活躍、スポンサー企業の増加など、ビジネス面でも急速に発展しています。
YouTubeやTwitchなどの配信プラットフォームを通じた観戦文化の浸透も、この成長を後押ししています。SNSとの連動により、選手の個人ブランディングやファンとの交流も活発化し、コンテンツとしての魅力が広がっています。
このように、eスポーツは単なるゲームにとどまらず、経済・メディア・教育分野にまたがる複合的な価値を持つ市場へと進化しています。

1-3. 教育分野への進出とグローバル感覚の育成

eスポーツは今、教育分野においても注目を集めています。競技性だけでなく、学習との親和性が高いことから、国内外の学校で授業や課外活動として導入され始めています。
特に注目されるのが、グローバル感覚の育成です。eスポーツはオンラインを通じて世界中のプレイヤーと接する機会が多く、言語や文化の違いを乗り越えて協力・競争する経験が得られます。こうした国際的なやりとりは、生徒の異文化理解やコミュニケーション力を自然と育てるきっかけになります。
このように、eスポーツは単なるゲームを超え、次世代の教育においても新たな学びの場としての可能性を広げています。

2.eスポーツが教育にもたらすメリット

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2-1. ビジネス感覚とマーケティング思考も育てる!eスポーツで鍛える問題解決力

eスポーツは、勝敗を競うだけでなく、プレイヤーに実社会でも活用できる「問題解決力」を養う場として機能しています。競技中は、常に相手の行動を予測し、自らの戦略を柔軟に調整しながら判断を下す必要があります。こうしたプロセスは、ビジネスにおけるマーケティングや意思決定の現場に通じるものがあります。
また、eスポーツイベントの運営や配信を通じて、プレイヤーや学生は自然と企画力やプロモーション、ブランディングの視点を身につけていきます。チーム戦では役割分担や目標達成のための戦略立案も求められ、企業活動に必要な実践的なスキルが、ゲームを通じて育まれるのです。
eスポーツは単なる娯楽にとどまらず、ビジネス思考を刺激する新しい教育ツールとなりつつあります。

2-2. チームワーク・コミュニケーション能力の向上

eスポーツの多くは、個人プレイではなくチームでの対戦を基本としています。チーム内での役割分担やリアルタイムの情報共有、相手チームへの対応など、協調性と的確なコミュニケーションが求められる環境です。このような状況の中で、自然と「聞く力」「伝える力」「共通の目標に向かう意識」が育まれていきます。
加えて、勝敗に一喜一憂する過程で、互いを尊重し支え合うメンタリティや、リーダーシップを発揮する機会も得られます。学校の授業や部活動では得がたい実践的な対人スキルを、eスポーツの現場では楽しみながら学ぶことができるのです。
こうした経験は、将来の職場や社会においても通用する、重要な「人間力」の基盤となります。

2-3. STEM教育との融合で育むデジタルリテラシーの向上

eスポーツは、STEM教育との親和性が非常に高い分野です。STEMとは、**科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)**の頭文字を取った教育概念で、複雑な課題に向き合うための論理的思考や問題解決力を育成することを目的としています。
eスポーツの競技や運営には、こうした思考やスキルが自然と求められます。戦略の立案には数学的思考が、配信やチーム連携には技術・工学的な理解が必要です。加えて、プログラミングやSNS配信の企画・運用、マーケティング視点での情報発信など、現代のデジタル社会に不可欠なスキルが体験的に学べるのも大きな特長です。
また、日々の活動を通じて、実践的なパソコンスキルの習得やデジタル環境への適応力が自然と養われていきます。たとえば、資料作成、オンラインでのやりとり、動画編集、情報の整理といった作業を、実際のプロジェクトを通じて経験することで、机上の学習を超えた生きたスキルが身につきます。
このように、eスポーツは単なるゲームにとどまらず、STEM教育の現場で有効な教材となり得るとともに、デジタル社会に必要なリテラシーを包括的に育てる実践の場として、大きな可能性を秘めています。

3.eスポーツを活用する教育機関の事例

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3-1. 日本国内の高校・大学での導入事例

日本国内では近年、eスポーツを教育に活用する動きが加速しています。特に高等学校や大学、専門学校での導入が進み、生徒・学生の学習意欲の向上やキャリア形成支援につながると注目されています。

導入の背景には、「Z世代に親和性が高く、学習とつながりやすい」「IT・デジタル分野との相性が良い」などの複数の要因があります。以下、具体的な事例を紹介します。

・品川学藝高等学校(東京都)

「全日制高校として日本初の"eスポーツを学べるコース"」として「eスポーツエデュケーションコース」を開設。「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性」の育成を目指すカリキュラムを展開しています。
ハイスペックPCを完備し、専門講師・大学教授・実況YouTuberによる特別授業、ゲームを教材とした実践型の授業も行われています。

※参考:品川学藝高等学校 eスポーツエデュケーションコース

・仙台育英学園高等学校(宮城県)

2018年からeスポーツを部活動として実践し、2019年には正式にeスポーツ部を設立。普通科高校としては先進的な取り組みで、ICT教育の延長としてeスポーツを導入。生徒の興味関心を学びと活動へとつなげるモデルとして注目されています。

※参考:仙台育英学園高等学校 eスポーツ部

・ルネサンス高等学校(通信制/全国)

全国に複数のキャンパスを持つ通信制高校で、「eスポーツコース」を設置。学びと競技を両立できる教育モデルを導入しています。従来の通信制高校に新たな選択肢を提供し、ゲームを教育資源として活用する新しいスタイルを提示しています。

※参考:ルネサンス高等学校 eスポーツコース

・武蔵野大学(東京都)

データサイエンス学部にて、eスポーツを教材に統計解析・行動分析・勝敗予測などを行う授業を展開。学生の興味を起点に、AIやデータ活用スキルを実践的に習得できる教育モデルを構築しています。2022年には「スポーツデータサイエンスコンペティション」のeスポーツ部門に学生チームが参加し、実社会と接続した学びの成果を挙げています。

※参考:スモールデータでデータ活用を始めてみよう「2022年度スポーツデータサイエンスコンペティション」eスポーツ部門 実績紹介

・ 東京情報大学(千葉県)

2024年度、教育・研究・地域連携の拠点として「共創ラボ」内に「eスポーツスタジオ」を新設。eスポーツを活用し、デジタル人材育成・ユニバーサルデザイン・STEAM教育の推進を図っています。地域の高校生を対象とした大会「東京情報大学杯」の開催など、地域貢献にもつなげています。

※参考:東京情報大学 eスポーツスタジオ 共創ラボ

・専門学校HAL(東京・大阪・名古屋)

eスポーツをプロ選手育成にとどめず、配信・運営・マネジメントなど多様な職種に対応した実践型カリキュラムを展開。プロチームとの連携やインターンシップ制度を通じて、産業界と直結した人材育成を推進しています。

※参考:専門学校 HAL 東京「eスポーツプロジェクト」


教育機関がeスポーツを導入することには、単なる娯楽としてのゲームを超えた、明確な教育的意義があります。
まず第一に、eスポーツは生徒や学生にとって非常に身近で親和性の高いコンテンツであるため、学習意欲の向上につながりやすいという特徴があります。「好きなこと」から入ることで、従来の教科学習とは異なる角度から「主体的な学び」への意識を引き出すことができます。

次に、eスポーツを通じて自然と社会性や人間力が育まれる点も重要です。多くのゲームがチーム戦を基本としているため、役割分担や情報共有、協力による目標達成が求められます。これらの経験を重ねることで、生徒はチームワークやコミュニケーション能力、リーダーシップといった社会人基礎力を実践的に身につけることができます。

さらに、eスポーツは単なるプレイにとどまらず、IT・メディア・配信・マーケティング・データ分析といったデジタル分野とも強く結びついています。これらのスキルは、情報社会において極めて重要な職業能力であり、将来のキャリア形成を見据えた学びとしても非常に有効です。特に情報系やSTEM教育と連動したカリキュラムでは、その効果が顕著です。

また、最近ではeスポーツを軸に、地域社会と連携したイベントや出張授業、地域貢献活動などを実施する学校も増えています。これは、学校の中だけで完結しない「社会とつながる学び」の実現につながり、生徒が地域課題や多世代との関係性に触れる貴重な機会ともなっています。

このように、eスポーツの教育導入は、学びのモチベーションを引き出し、社会性と実践力を養い、未来への選択肢を広げる新しい教育手法として、今後ますます注目されていくでしょう。

3-2. 世界の教育機関における先進的な取り組み

eスポーツを教育に取り入れる動きは、日本よりも先行して海外で広がっています。特にアメリカ・韓国・イギリスなどの国々では、eスポーツが単なる課外活動ではなく、高等教育や国家戦略の一環として導入されている点が特徴的です。

・アメリカ:大学レベルで進むeスポーツ支援と奨学金制度

アメリカでは、eスポーツを正式な大学スポーツとして導入する動きが広がっています。
2014年、Robert Morris Universityが全米で初めてeスポーツ選手に奨学金を支給する制度を導入し、現在ではNACE(全米大学eスポーツ連盟)に260校以上が加盟。2023年度には約70億円相当の奨学金が支給されました。
各大学では、専用施設や分析ルーム、配信スタジオの整備、プロチームとの連携授業などが行われており、学生はプレイだけでなく、運営・戦略・心理学的知見を学ぶ実践的な学習機会を得ています。

※参考:Robert Morris University esports奨学金の導入についての報道

・韓国:国家戦略として進むeスポーツ教育と人材育成

韓国では、eスポーツを"文化輸出"と"成長産業"の両軸で捉え、国家戦略として教育との連携が進んでいます。政府機関KOCCA(韓国コンテンツ振興院)は、eスポーツとIT教育を融合した人材育成プログラムを展開。高校生向けのアカデミーでは、競技プレイに加え、配信・分析・マネジメントなど実践的なスキルも指導しています。
また、ソウルのSeoul Game Academyなど民間教育機関では、eスポーツとゲーム開発・運営のカリキュラムが提供され、実務に直結した学びを促進。一部の高校ではeスポーツ専攻クラスも開設されており、教育・産業・文化が一体となった育成モデルが構築されています。

※参考:KOCCA公式サイト

・イギリス:職業教育資格として制度化されるeスポーツ

イギリスでは、教育機関Pearsonが主導する「BTEC in Esports」が2020年から提供され、eスポーツをビジネスやイベント運営、IT活用と結びつけた職業教育資格として制度化されています。
高校生(16歳以上)向けのLevel 3(National Diploma)に加え、2024年9月からは大学相当のLevel 4・5の上級資格も導入予定で、より専門的な学びへと拡張されています。
この資格を取得することで、学生はゲーム・配信・デジタルコンテンツ業界への就職だけでなく、大学進学の選択肢も広がる仕組みとなっており、eスポーツが産業・教育をつなぐ"実践的キャリア教育"として制度的に位置づけられています。

※参考:Pearson 「BTEC in Esports」資格プログラム

これらの国々の事例から共通して見えてくるのは、eスポーツが単なる娯楽やクラブ活動ではなく、

・デジタル時代の教育ツール

・国際競争力のある人材育成手段

・職業につながるリアルな学び

として位置づけられていることです。

また、各国とも「産業界」「教育機関」「政府」が連携することで、eスポーツ教育の質と実効性を高めています。
日本もこれらの先進事例を参考にしながら、独自の文化や教育システムに合った形で発展させていくことが今後のカギとなるでしょう。

3-3. 成功した導入事例とその成果

eスポーツを教育に導入したことで、具体的な成果を上げている学校や教育機関も現れています。その成果は、単に競技力の向上だけにとどまらず、生徒の意欲やコミュニケーション能力の向上、さらには進路選択の幅を広げることにもつながっています。

成果①:中高大をつなぐ共創学習で、学びと交流の場を創出(日本大学生産工学部)

日本大学生産工学部では「中高大連携プロジェクト」として、5G通信環境を備えたeスポーツルームを開設。高校・中学校・大学が共に参加するイベントや交流会を定期開催しています。
高校・中学校との垣根を超えた教育連携が実現し、生徒・学生の交流機会が増えたことで、校内外の学習意欲向上・学校コミュニティの活性化につながっています。

※参考:日本大学生産工学部

成果②:地域とつながるeスポーツ教育(神奈川県横浜市)

神奈川県横須賀市では、協賛企業・学校・自治体が連携し、市内14校中10校がeスポーツ取り組みを行っています。2021年から「YOKOSUKA e Sports CUP」を開始し、2024年にはオフライン会場による一般観客参加も実現しました。
地域イベントとして一般市民の関心も呼び、「学校 × 地域 ×産業」のクロスセクションを創出。教育にとどまらない"学び・発信・まちづくり"の場として機能し始めています。

※参考:YOKOSUKA e Sports CUP

成果③:CTスキル・配信技術の実践的習得(近畿大学)

近畿大学内に設置された「esports Arena」では、学生が大会運営・実況・配信業務を実践。イベント制作・プロジェクトマネジメント・ICTスキルの育成を通じて、就職活動でもアピールできる実務経験を獲得しています。

※参考:近畿大学「esports Arena」

成果④:教育の枠を超えた学びの広がり(武蔵野大学)

データサイエンス学部では、eスポーツを教材として活用した実践的な学びを展開。学生はゲーム内の行動データをもとに、勝敗予測やプレイヤー分析、戦略構築を行いながら、AI・統計・プログラミングといった専門スキルを現実の課題と結びつけて学習しています。
2022年には「スポーツデータサイエンスコンペティション」eスポーツ部門に学生チームが出場するなど、教育・産業・キャリア形成がつながる学びの実践例となっています。学生の論理的思考力や分析力が向上するとともに、eスポーツをきっかけとした社会との接点や、学内外のキャリア支援にも成果が表れています。

※参考:武蔵野大学 データサイエンス学部

これらの成功事例は、eスポーツが単なる流行ではなく、教育・地域・社会をつなぐ新たな手段として定着しつつあることを示しています。今後も、その可能性はさらに広がっていくことでしょう。

4.eスポーツを活かしたキャリア教育の可能性

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4-1. eスポーツ関連職種の広がり

eスポーツ業界の急成長に伴い、関連する職種の幅も飛躍的に広がっています。プロゲーマーというイメージに留まらず、「支える・創る・伝える」側の職業が数多く生まれ、若者たちの多様なキャリアパスを生み出しています。

一般的には「eスポーツ=プロ選手」という印象が強いものの、実際には選手を支える周辺職種の重要性が高まっています。 たとえば、

・チームマネージャー・コーチ:戦術指導やスケジュール管理、選手のメンタルサポート

・アナリスト:プレイデータや相手の戦略を分析し、試合へのフィードバックを提供

・配信ディレクター:映像演出・視聴体験の最適化

・スポンサー対応・広報:ビジネス連携、企業との関係構築、SNS発信

これらの職種は、もはやeスポーツ業界だけにとどまらず、IT・メディア・スポーツビジネス全体で通用する職能へと広がっています。これらの仕事には、コミュニケーション力、情報発信力、コンテンツ構築力が求められ、eスポーツを通じて自然と育まれるスキルと深く結びついています。

加えて、動画編集者、実況・解説者、ゲームライター、SNSマネージャーなど、デジタルメディアの発展とともに生まれた職種も増え続けています。

TwitchやYouTubeなどの配信プラットフォームでは、プレイヤーだけでなく「見せる・盛り上げる・つなげる」役割が重視されており、ゲーム体験を「コンテンツ」に変える力が求められています。
特に若年層の"ゲーム文化"への理解と発信力を活かし、企業やプロチームのブランディングに貢献するポジションも多数登場しています。

こうした広がりにより、eスポーツは「特別な才能を持った人の世界」ではなく、自分の得意分野や興味を活かして参入できる多様な職域を持つ業界へと進化しています。
このように、eスポーツはもはや「プレイするだけ」の領域にとどまりません。
技術・運営・発信・教育といった多方面での職業チャンスを提供し、現代の若者にとって"好き"を仕事に変える、現実的で希望のある選択肢になりつつあります。

4-2. プロ選手以外のキャリアパス:開発・運営・支援の広がり

eスポーツ業界の魅力は、プロ選手として活躍することだけにとどまりません。実際には、ゲームを「プレイする」以外の関わり方にこそ、より多くの若者にとって現実的かつ将来性のあるキャリアの選択肢が広がっています。特に、ゲーム開発、イベント運営、配信技術、チーム支援といった裏方の分野は、eスポーツを支える要として近年急速に注目を集めています。

■ゲームを"創る"側への道:開発・設計・技術職

eスポーツ、eスポーツの競技タイトルが日々進化し続けている背景には、高度な技術を持つ開発者やエンジニアたちの存在があります。

・ゲームプログラマー:対戦システムや操作感の設計、AIロジックの構築

・UI/UXデザイナー:プレイヤーが直感的に楽しめる画面設計

・サーバー・ネットワークエンジニア:通信安定性・ラグの最小化への対応

これらの職種はeスポーツに限らず、IT業界全体でもニーズが高い職種であり、専門学校・大学での技術教育との連携も進んでいます。

■"場をつくる"側へ:大会運営・配信・ステージ設計

大会やイベントが盛り上がる背景には、舞台を創る専門職の活躍があります。

・イベントプランナー:大会の構成設計、日程・会場・演出の全体調整

・映像・音響スタッフ:照明・カメラ・BGMなどの演出設計

・配信エンジニア:OBSや配信機材を用いたライブ配信の設計と管理

特に最近では、リアル会場とオンライン配信を組み合わせた「ハイブリッド型」イベントが主流となり、これを支える技術者のニーズが一段と高まっています。

■"プレイヤーを支える"キャリア:マネジメント・分析・広報

選手がパフォーマンスを発揮できる環境を整える役割もまた、重要な職種です。

・マネージャー:生活・練習スケジュールの調整、外部対応の窓口

・データアナリスト:プレイログや相手戦術の解析と戦略提案

・広報・マーケター:SNS運用やスポンサー対応、チームの魅力発信

選手本人が目立つ一方で、こうした支援職こそがチームの持続性・成長戦略を担う存在として欠かせません。

このように、eスポーツにはプレイヤーだけでなく、「支える」「創る」「演出する」といった多様な関わり方があります。それぞれが業界の発展を支える中核を担い、また、現代の若者にとって"好き"を仕事に変えるための具体的な選択肢として、非常に現実味のある進路を提供しています。

たとえば、ある専門学校ではeスポーツイベントの企画・運営・配信を学生が主体的に担当する実践型プログラムを導入しています。その経験を活かしてゲーム会社や映像制作、イベント業界への就職に結びついており、「自分で動き、自分で創る」教育がそのままキャリア形成へとつながっています。

eスポーツという分野は、プロになることだけが目的ではなく、支える立場、作る立場、届ける立場の人材がいてこそ成り立つ総合的な産業です。そこには、努力や情熱を活かして社会と関わるための、多彩で実践的なキャリアの入り口が広がっているのです。

4-3. デジタル時代に求められるスキルとeスポーツの関係

現代社会では、情報技術の進化とともに、あらゆる分野でデジタルスキルの重要性が高まっています。そうした中、eスポーツは単なるゲームの領域を超え、デジタル時代に求められるスキルを体験的に学べるフィールドとして、教育現場やキャリア形成の場で大きな注目を集めています。

■デジタルリテラシーを自然と習得できる環境

eスポーツを通じてまず身につくのが、パソコン・ゲーム機・配信ソフト・SNSなどのツールを扱う能力、いわゆるデジタルリテラシーです。プレイに関するスキルだけでなく、チーム運営や映像編集、配信環境の整備といった場面で、情報機器やデジタルサービスを自在に使いこなす力が求められます。これらは、将来のIT・ビジネス・クリエイティブ業界など幅広い分野に応用可能な基本スキルです。

■論理的思考力・問題解決力・コミュニケーション力の育成

eスポーツでは個人の判断力に加えて、チーム全体で戦略を練り、リアルタイムで情報を共有する力が求められます。つまり、「考える力」と「伝える力」が不可欠です。ゲーム中は相手の動きを予測しながら素早く判断し、味方と情報を共有して柔軟に戦術を構築する必要があります。こうしたプロセスを通じて、論理的思考・判断力・協働力・コミュニケーション能力といった社会人基礎力が自然と養われていくのです。特にチーム戦では、役割分担と連携の中で目標達成を目指すという構造そのものが、職場や社会で求められる協働スキルの訓練となるのです。

■コンテンツ制作力・マーケティング感覚の育成

配信や動画編集、SNSでの発信を通じて、「つくる側」の視点も身につきます。TwitchやYouTubeといった配信プラットフォームで成果を出すには、台本構成、映像編集、演出、視聴者とのインタラクション、データ分析、ブランディング戦略など、さまざまなスキルが求められます。これらはまさに、マーケティングやメディア業界で必要とされる力であり、eスポーツが「遊び」ではなく、「情報を魅力的に届ける力」を育てる実践の場であることを示しています。

■STEM・プログラミング教育との高い親和性

eスポーツは「プログラミング教育」との相性も良好です。プレイヤーの中には、「ゲームの仕組み」や「プログラム構造」に関心を持つ生徒も少なくありません。実際に、自作ゲームや配信ツールを開発する学生も増えています。こうした体験は、アルゴリズム的思考や論理構造の理解につながり、STEM(科学・技術・工学・数学)教育の観点からも非常に有効です。

ここで重要なのは、こうしたスキルが一方的に"教えられる"ものではなく、自分で必要性を感じて身につける"という点です。勝利を目指す過程で論理的に考え、効率化し、表現し、伝える術を磨いていきます。目的と興味が重なったとき、人はもっとも深く学ぶという教育の本質が、eスポーツの実践現場には詰まっているのです。

このように、eスポーツは現代におけるデジタルスキルの実践的トレーニングフィールドです。競技性の中に学びを見出し、そこから社会に通用するスキル群を育成できるという点で、教育的価値は非常に高いといえます。「ゲームができる」だけでなく、「社会で求められる力が自然と育つ」。そんな新しい学びの形が、eスポーツには確かに存在しているのです。

4-4. eスポーツを通じた起業家精神、アントレプレナーシップの育成

eスポーツは、若い世代が自分で企画・発信・行動する力を育む実践の場でもあります。イベントやチームの立ち上げ、個人配信活動などの活動を通じて、創造性と主体性が育まれ、まさに起業家精神(アントレプレナーシップ)そのものといえるでしょう。
近年では、学生が主体となってeスポーツイベントを立ち上げるケースが増加しています。目標設定からスケジュール管理、参加者の募集、広報活動、配信の設計、スポンサー対応に至るまで、全てのプロセスを自分たちの手で行うこれらの取り組みは、小さなプロジェクトでありながらも、実際のビジネスの立ち上げに極めて近い経験といえます。立案・運営・改善という一連のサイクルを通して、チームで目標に向かって動く力、他者を巻き込む力、そして課題に柔軟に対応する力が養われます。

たとえば、学内で開催されるeスポーツ大会では、企画書の作成から会場手配、機材の準備、配信の構成、参加者・視聴者とのコミュニケーション設計に至るまで、学生が中心となって進行します。こうした実践を通じて、計画立案力・推進力・対応力といった、起業に求められるコアスキルが育まれていくのです。
また、自らのチャンネルを運営する配信者(ストリーマー)としての活動も、現代的な"個人起業"といえます。配信内容の企画、ブランディングファンとの関係づくり、データ分析、収益モデルの設計など、そのすべてがマーケティング戦略とビジネス感覚を必要とする実践の連続です。これらのスキルは、個人の影響力を活かして価値を提供していく"クリエイター経済"の時代において、ますます重要になっています。

eスポーツは、プレイヤーであると同時に発信者・企画者・プロデューサーとしての自分を試す場でもあります。将来起業を目指す若者や、自ら道を切り開こうとする人材にとって、実践を通じた成長の機会が広がっています。
このような経験を積むことで、外から与えられる知識を受け取るだけではなく、自ら学び、自らつくり出す学びへとシフトしていくのです。こうした姿勢は、起業家に限らず、あらゆる職業で必要とされる自律性や行動力の土台となります。
eスポーツを通じて育まれるアントレプレナーシップは、ビジネスの枠を超え、教育・地域・社会といった多様なフィールドにおける価値創造の原動力にもなり得ます。"好き"を起点に、自分のアイデアと行動で価値を生み出していく。この力を若いうちから体験的に育てられる環境こそ、eスポーツの持つ、もう一つの大きな教育的価値なのです。

5.eスポーツに関する課題と向き合う視点

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5-1. ゲーム依存のリスクと対策

eスポーツに対して最も多く寄せられる懸念の一つが、「ゲーム依存」です。たしかに、長時間のプレイや生活リズムの乱れによって健康や学業に悪影響が出るケースはあり得ます。しかし、それはあくまで過度な関わり方や環境の影響によるものであり、eスポーツ自体に本質的な問題があるわけではありません。
そもそも、「何かに夢中になること」と「依存症的であること」は紙一重の側面もあります。たとえば、スポーツや音楽、将棋に没頭する人が「スポーツ依存」「思考依存」と呼ばれることはありません。好きなことに真剣に打ち込む行為そのものは、むしろ肯定されるべき成長機会といえるでしょう。
目的もなくダラダラとゲームを続けることは、確かに機会損失といえます。しかしeスポーツは異なります。明確なルール、目標、競争性、戦略性、チームでの協力が前提となっており、プレイヤーはその中で集中力や瞬発力、判断力、協働力といったスキルを実践的に鍛えています。それは単なる「遊び」ではなく、トレーニング要素を持つ育成された活動なのです。
リスクを回避し、教育的価値を最大限に活かすためには、「時間の使い方」「環境の設計」「周囲の理解」の3点が重要です。目的を持って計画的に取り組めば、eスポーツはむしろ自己管理能力や目標達成力を育てる教材となり得ます。

5-2. 学業との両立をどう考えるべきか

「eスポーツに熱中しすぎて学業がおろそかになるのでは?」という声も根強くあります。しかし、これはeスポーツに限らず、部活動や趣味全般にも当てはまる問題です。本質的に問われるべきは"環境と意識の設計"なのです。
多くの学校では、「宿題を終えてから参加する」「練習は〇時まで」などといったルールを導入し、学業とeスポーツを両立させる体制を構築しています。これにより、生徒自身が時間管理や優先順位の感覚を身につけるきっかけとなり、将来の大学生活や社会人生活にもつながる貴重な習慣が育ちます。
また、eスポーツの活動自体が、学業を補完する学びの要素を多く含んでいる点も見逃せません。集中力・論理的思考・情報処理能力、戦略的思考、英語でのコミュニケーション、ITスキル、情報収集力など、教室では得にくい"実践的な学び"が豊富に詰まっているのです。つまり、正しい取り入れ方をすれば、eスポーツは学業と競合するものではなく、相互補完的な存在になり得るのです。

5-3. 保護者・教育機関ができること

eスポーツを健全に育てるには、大人たちの理解と関与が不可欠です。まずは「ゲーム=悪」と決めつけるのではなく、その中に含まれる価値や可能性に目を向けることが求められます。
まず、保護者にできることは、「なぜこのゲームに夢中になっているのか」「どこに魅力を感じているのか」といった点を子どもと対話を通じて理解しようとする姿勢です。頭ごなしに制限するのではなく、ルールと自主性のバランスをとる関わり方が、子どもの成長につながります。
教育機関においても、eスポーツを単なる娯楽や流行と捉えるのではなく、現代的な学習ツールとして再評価する視点が必要です。チームワーク、マナー、プレッシャー下での判断力、発信力、課題解決力といった、教育的価値が数多く含まれています。すでに導入実績のある学校では、外部講師や地域連携を活用し、キャリア教育や地域貢献と接続した指導体制を整備している事例も増えています。
今後は、家庭・学校・地域が三位一体となって「導く側」として関わることが、子どもたちが安心して夢中になれるeスポーツ環境の構築につながります。それは、eスポーツを単なる娯楽にとどめず、次世代の教育資源として定着させるための大きな一歩となるでしょう。

6.eスポーツと教育の未来展望

6-1. 未来の教育におけるeスポーツの役割

これからの教育は、「知識を教える」から「経験を通じて自ら学ぶ」へと変化しつつあります。eスポーツはその象徴的な存在として、探究型・体験型学習のフィールドとしての可能性を広げています。
eスポーツを通じて生徒たちは、ゲームプレイにとどまらず、企画・運営・開発・発信といった多様な形で関わる中で、デジタル社会に必要とされる実践的なスキルを育んでいきます。リアルタイムで状況が変化する中で判断し、協働し、表現する力が求められる環境は、まさに生きた学びの場です。こうした体験を通して、生徒は自らの得意分野や適性を発見していきます。
さらにeスポーツは「遊び」の枠を超えて、社会とつながる"実践の舞台"としての性格も強く持っています。企業や大学、地域社会との接点が豊富で、生徒が社会的な文脈で自らの役割を体験できる機会が多数存在します。
このような環境に身を置くことで、生徒たちは単に技術を習得するだけでなく、「自分で学ぶ力」や「自分で考え行動する力」を自然と育てていきます。eスポーツは、まさに未来の教育を先取りする実践モデルとなりつつあります。

6-2. 企業・自治体・学校の連携による可能性

eスポーツを教育の中に定着させ、さらに発展させていくためには、学校・企業・自治体の三者による連携が不可欠です。この連携は単なる運営支援にとどまらず、教育と社会をシームレスにつなぐ役割を果たします。
企業は、配信技術、コンテンツ制作、マーケティング、データ分析など、実務現場で求められる最新技術や業界知識を学校現場にもたらします。プロによる講義やインターンシップの受け入れ、教材や機材の提供など、学校教育だけでは得られない"リアルな学び"を加えることが可能です。
自治体は、地域の施設やネットワークを活用し、eスポーツイベントを軸にした地域活性化や世代間交流の拠点として展開できます。イベント開催や地域連携プロジェクトを通じて、教育が地域に貢献し、地域が教育を支えるという双方向の循環が生まれます。
学校は、これらの資源を教育に活かし、正しい理解と指導のもとで生徒の可能性を引き出す環境を整えることが求められています。
この三者が連携することで、eスポーツを中心に据えた「地域とつながる教育モデル」が、より持続可能な形で展開されていくでしょう。

6-3. eスポーツが創る、新しい学びのカタチ

eスポーツの魅力は、単なるプレイにとどまらず、発信者・分析者・創造者・運営者としての自己を育てられる点にあります。配信や大会運営、映像編集、SNS発信といった実践を通じて、生徒自身の創造性と主体性を大きく引き出します。
また、eスポーツは多様な才能が認められる環境でもあります。プレイ・編集・分析、編集スキルなど、さまざまな役割が存在するため、画一的な評価基準の中では見えにくかった個性や能力が可視化され、活かされるチャンスが広がります。
そして、eスポーツに関わる中で、生徒たちは自然と「自ら学びを創る」という視点を身につけていきます。自分で調べ、試行錯誤し、アウトプットしていくという一連のプロセスは、能動的な学習者としての自覚を育みます。
このように、eスポーツによって育まれる学びは、「与えられる学び」から「自ら創る学び」への転換を促し、現代の教育が目指す姿を体現しています。
eスポーツが学校教育に根づくことで、「学びとは何か」という問いそのものに対し、新しい可能性が提示されます。教室で教えるだけではなく、現場で感じ、社会とつながり、未来を構想する。そんな次世代の学びのスタイルが、今まさにeスポーツを通じて実現しつつあるのです。

経営学部 准教授 堀川 宣和

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