2025.12.01
eスポーツは引きこもりの原因か、解決策か?社会復帰への"新たな出口"としての可能性を探る

引きこもり支援の突破口に──eスポーツが開く未来
1. eスポーツと引きこもりの関係性とは?

「ゲームが引きこもりの原因」と考える人は少なくありません。内閣府の調査(2022)では、引きこもり当事者の6割以上が「孤独感」や「社会に居場所がないこと」を主要な理由に挙げており、、ゲームはその"代替的居場所"として選ばれることが多いのです。
特にeスポーツは、単なる娯楽ではなく、「協働」や「戦略性」が求められる競技型の活動です。 たとえば、試合前に役割を分担し、試合中は「今そっちに敵が行った」「次は後ろから攻めよう」といったリアルタイムの連携が行われます。試合後には「なぜ負けたのか」「どう改善するか」を話し合うことも多く、振り返りと修正のプロセスが自然と組み込まれています。こうした一連のやりとりを通じて、判断力・責任感・チームワークが育まれ、「人とつながっている実感」や「自分の居場所」という感覚が生まれていくのです。
これまで社会との接点を持てなかった若者にとって、eスポーツは「閉ざされた部屋の外とつながるきっかけ」になり得ます。つまり、eスポーツは引きこもりを生むのではなく、むしろ「閉じこもる空間の中から社会とつながるための出入り口」として機能する可能性を秘めているのです。
2. ゲーム依存とeスポーツの違い
ゲーム依存とeスポーツは、同じ「ゲーム」に見えても本質的に異なります。ゲーム依存症は、世界保健機関(WHO)によって2019年に正式な疾患として認定されました。「ゲームの制御ができなくなり、日常生活や健康に悪影響を及ぼす状態」とされています。
一方、 eスポーツでは、日々の練習時間を自分で決め、体調や集中力に合わせて調整する必要があります。試合前には作戦を立て、チームと目標を共有し、当日のコンディションに応じて柔軟に対応する場面も多くあります。
こうしたプロセスはまさに、スケジュール管理や優先順位付け、目標設定と修正といった、社会人にも求められる「自己管理能力」や「計画的思考」に直結しています。
また、勝利のために時間をどう使うか、どうチームと連携するかという戦略的思考が求められ、無目的に時間を浪費するゲーム依存とは大きく異なります。さらに、eスポーツでは他者との関わりが前提となるため、孤立するどころか社会的な関係性を築く場面が増えるのです。つまり、eスポーツは"熱中"であっても、"依存"ではない。そこにこそ、引きこもり支援としての活用の可能性があるのです。
3. オンラインコミュニティが生み出す新たな人間関係

3-1. ゲームを通じたリアルな友情・チームワーク
引きこもりの若者にとって、現実の対面コミュニケーションは心理的ハードルが高いものです。しかし、ゲームの中であれば「匿名性」や「距離感」が安心を与え、自然な関係づくりが可能になります。特にeスポーツのようなチームプレイ型ゲームでは、勝利のために仲間と協力する必要があり、自然と信頼や連帯感が生まれていきます。
引きこもりの当事者にとって、リアルの人間関係はハードルが高くても、「ゲームの中の仲間」という距離感のある関係からであれば、安心してつながることができます。
実際、ゲーム内で長くチームを組んだ仲間同士がオフラインイベントで初対面し、そこから就労支援へつながった事例もあります。ゲームがリアルな人間関係への橋渡しとなるケースは、今や特別ではなくなっています。
3-2. SNSやDiscordなどを活用した社会交流
eスポーツのプレイヤーたちは、ゲーム内のコミュニケーションだけでなく、DiscordやX(旧Twitter)などのSNSを通じて情報を交換したり、イベントやトレーニングを企画したりすることも多くあります。
これらのツールは、引きこもりの若者が「自分のペースで人と関われる」環境を提供してくれます。たとえば、テキストチャットから始め、慣れてきたらボイスチャットに移行するなど、段階的な関係構築が可能です。
このように、eスポーツを取り巻くオンラインコミュニティは、"関わりたいけど怖い"というジレンマを抱える人にとって、安心できる交流の場となります。そして、そこで得た「つながれた」という実感が、現実社会へ踏み出す自信につながっていくのです。
4. eスポーツのスキルを仕事に活かす方法

4-1. eスポーツと一般企業の求めるスキルの共通点
eスポーツで求められるスキルは、実はビジネスの現場で活かされる力と多くの共通点があります。
たとえば、対戦中には相手の動きを予測し、状況に応じて瞬時に判断・行動する必要があります。これは企業での「問題解決力」や「臨機応変な対応力」、さらにプロジェクトを進める際に欠かせない「判断と実行のスピード感」といったスキルに直結します。
また、チーム戦では事前に役割を決め、プレイ中には仲間とリアルタイムで情報を共有しながら戦います。これにより、コミュニケーション能力やチームワーク力が自然と養われるのです。
さらに、eスポーツ選手は常に「どうすれば勝てるか?」を考え、練習や試合を通じてスキルや戦術を磨いています。この姿勢は、ビジネスにおいて広く活用されているPDCAサイクル(Plan・Do・Check・Act)と非常に近いものです。
たとえば、事前に戦略や目標を立て(Plan)、それを試合で実行し(Do)、終了後に振り返って(Check)、課題を見つけて改善策を練る(Act)という一連の流れは、プロジェクト運営そのものといえるでしょう。
つまり、eスポーツはただの娯楽ではなく、社会で求められる実践的なスキルを育てる環境です。そして、その「ゲーム経験」が、将来のキャリア形成に役立つ価値ある資産へと転換し得るのです。
4-2. 実際にeスポーツ経由で社会復帰したケース
国内には、eスポーツを活用して社会復帰に成功した事例が複数あります。
たとえば、不登校や引きこもり経験のある若者を対象にeスポーツ体験会を実施。ある青年は、長期間の無言生活を経て、ゲーム中に仲間の「ナイスプレイ!」に対して微笑み、そこから人との関わりが生まれました。
実際に、eスポーツをきっかけに社会復帰への一歩を踏み出した引きこもり当事者は少なくありません。
たとえば、ある若者は中学卒業後、不登校となり5年以上自室に引きこもっていましたが、オンラインで出会ったeスポーツ仲間との関わりを通じて、少しずつ会話を楽しめるようになりました。やがて地元のeスポーツ支援団体が主催するオフラインイベントに参加し、そこで「人と会う」という新しい一歩を踏み出します。その後、イベントスタッフとして活動に関わり、今では動画編集や配信サポートの仕事を請け負うまでになりました。
このように、eスポーツの場が自己表現や技術習得の機会となり、社会との接点を取り戻す足がかりとなっているのです。
5. ゲーム漬けのリスクと健康管理の重要性

eスポーツには多くの可能性がありますが、同時に注意すべき点も存在します。それが「ゲーム漬け」ともいえる過度なプレイです。長時間にわたるプレイは、睡眠不足、運動不足、視力低下、肩こり・腰痛といった身体的な不調を引き起こすだけでなく、昼夜逆転などの生活リズムの乱れや、集中力・意欲の低下といった精神的なリスクも孕んでいます。
厚生労働省の調査では、長時間プレイヤーの約30%が慢性的な睡眠不足を報告しており、これは心身の不調と直結します。結果として、せっかく社会復帰のきっかけとなるeスポーツも、健康を損なうことで継続できなくなる可能性があるのです。
その一方で、eスポーツは戦略的思考・チームワーク・問題解決力・自己管理能力といった、社会で求められる実践的なスキルを磨ける貴重な環境でもあります。試合ごとに戦術を立て、役割分担しながら仲間と連携し、結果を振り返って改善する──これらの一連の流れは、ビジネス現場のPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルと同様です。
つまり、eスポーツは健康的に続けられれば、単なる娯楽ではなくキャリア形成にもつながる成長の場になり得ます。そのためにも、「プレイ時間の管理」や「定期的な休憩」「体調チェック」など、基本的な健康管理の徹底が極めて重要です。
実際に、eスポーツ教室に心理士を配置し、プレイヤーの心身両面のケアを行う先進的な取り組みを実施しています。また、一部の民間団体では、運動プログラムや食生活指導を取り入れたeスポーツ支援も行われており、ゲームと健康の両立を前提とした支援設計が始まっています。
eスポーツの力を最大限に活かすためには、「健康を土台にする」という視点を忘れず、本人・家族・支援者・地域が一体となってバランスを支える必要があります。 eスポーツは正しく向き合えば可能性に満ちたツールですが、それを活かすには「健康を土台にする意識」が求められます。
6. eスポーツがつなぐ新たな社会への扉──支援に取り組むNPOや団体の実例
eスポーツは今、引きこもりや不登校の若者にとって、ただの娯楽ではなく"外の世界"とつながる新たな手段として注目されています。全国各地では、eスポーツを活用した支援の実例が生まれ、確かな成果を上げています。
● 一般社団法人ePARA(全国)
"得意"が居場所になる、eスポーツの多様な関わり方
「バリアフリーeスポーツ」を掲げ、障がいや社会的孤立を抱える人々に向けて、eスポーツイベントや配信プロジェクトを提供しています。特徴は、プレイヤー以外の関わり方(実況・配信・編集・運営・広報など)を重視している点です。
たとえば、ある引きこもり経験者は、対人に不安がある中で配信の裏方から関わり始め、スキルを磨いたことで自己肯定感を回復。やがて実況にも挑戦し、ナレーションや映像編集の副業にまで活躍の場を広げました。「好き」や「得意」を入り口に社会と接点を築く」という支援スタイルは、多様性と自律性を尊重する点で注目されています。
● 一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)
誰もが参加できるeスポーツへ――社会全体の意識を変える取り組み
障がいのある方や高齢者を対象に、誰もがeスポーツを楽しめるように支援教材や教室運営マニュアルを公開。バリアフリーeスポーツ普及のため、自治体・福祉事業者との連携も進めています。
実際、同連合が実施した調査では「障がいのある人がeスポーツに参加することに賛成」と回答した親世代が約78%に達し、eスポーツへの社会的理解が進んでいることが示されています。
● eスポーツ専門放課後等デイサービス TJ es(北海道札幌市)
"行けない"から"行きたい"へ──eスポーツが変える居場所のカタチ
通学が難しい中高生に対し、eスポーツを活用し、「通える場所」をつくりながら、自信や社会性を育む取り組みを展開しています。
通うことが目的ではなく、「ゲームなら行きたい」と思える環境づくりを重視。ゲームを通じた自己表現や協調性の学びを通じて、段階的な成長が促されています。家庭との連携や専門職の支援もあり、安心して通える場所として機能しています。
● ゲシピ株式会社
ゲームで学ぶ、"家庭の中の学び場"構築
ゲシピ社が展開する「eスポーツ英会話®︎」は、ゲームと英語学習を組み合わせたオンラインプログラムです。家庭にいながら世界中の仲間と関わることができ、特に通学が困難な子どもたちに"つながる学び"を提供しています。
「フォートナイト」などの人気ゲームを通じて自然な英会話が生まれ、言語習得と同時に社会性の育成にも貢献。現在は小中学生の保護者からも高い評価を得ており、「学びながら人とつながる」新しい学習モデルとして注目されています。
● 認定NPO法人 高卒支援会
ゲームから"通える場"へ――eスポーツ×居場所支援
不登校や引きこもり状態にある若者に対し、eスポーツを通じた対話・関係づくりを行うフリースクール的支援を実施。秋葉原のeスポーツ施設やオンラインチャットを活用し、「まずはゲームでつながる」ことから始めています。
活動に参加した生徒の中には、長く引きこもっていた状態から少しずつ会話ができるようになり、フリースクールへの登校頻度も増加。ゲームという共通の関心が"再び社会と関わるきっかけ"になることを実証しています。
7. "応援"が未来を変える──家族・支援者にできる現実的サポートとは
引きこもりの当事者が社会と再びつながるには、本人の意志だけでなく、周囲の理解と支援が不可欠です。特に家族や支援者の関わり方は、その後の変化に大きな影響を与えます。eスポーツがその一助となる場合でも、無理に勧めるのではなく、本人の興味やタイミングに合わせた接し方が重要です。
まずは、子どもの気持ちに寄り添うこと。否定や指示ではなく、「何に関心があるのか」「どこに安心を感じているのか」に耳を傾けることが出発点になります。
たとえば、ある家庭では「ゲームばかりしていないで外へ出なさい」と繰り返していた結果、親子関係が悪化してしまったケースがありました。ところが、保護者が「どんなゲームが面白いの?」と関心を示し、子どもがプレイを説明する中で、少しずつ会話が増えて関係性が改善されたという報告があります。本人が興味を持っている分野に"歩み寄る姿勢"が、信頼回復の糸口になることもあります。
また、無理に外へ出そうとするよりも、まずは「ゲームに没頭する背景」を理解し、関心の中にある可能性を一緒に探る姿勢が求められます。eスポーツを通じて自己肯定感や社会性が芽生える可能性もあるため、押しつけではなく「共有する関係性」が支援の鍵となります。
次に、専門機関との連携も大切です。民間支援団体や教育機関、医療や心理の専門家とつながることで、状況に応じた適切な対応が可能になります。たとえば、地域包括支援センター、精神保健福祉センター、引きこもり地域支援センターなどが窓口になります。
そして、家庭内や周囲でのサポート体制を整えること。例えば、決まった生活リズムや過ごしやすい環境の確保、ゲームとの健全な付き合い方のルールづくりなどが挙げられます。また、過ごしやすい部屋の環境や、安心してゲームに取り組める時間設定なども、家庭の支援として効果的です。
このように、周囲が"伴走者"として見守る姿勢が、本人の自立や社会復帰を促す力になります。
8. 引きこもり解決へのeスポーツ活用術──具体的アプローチまとめ
eスポーツは引きこもりの原因になることもあれば、適切に活用すれば強力な解決策にもなり得ます。その可能性を引き出すためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
まず、なぜeスポーツが解決策になり得るかというと、単なる娯楽ではなく、社会性、チームワーク、自己肯定感、戦略的思考力など、社会復帰に必要なスキルを自然に育む土壌があるためです。対人関係に不安を抱く若者でも、ゲームを通じた間接的な交流から人との関わりを再構築できることが多く報告されています。
次に、eスポーツをどのように活用すべきか。家庭であれば、「ゲームを禁止する」のではなく、本人と一緒にルールを決め、成功体験を積み重ねること。支援団体であれば、「競技」だけでなく、「実況」「運営」「映像編集」など多様な関わり方を用意し、本人の得意を活かす場づくりを行うこと。学校現場では、授業やクラブ活動に取り入れ、自己表現や他者との協力経験を促進することが効果的です。
成功のためには、本人の興味やペースを尊重すること、小さな成功体験を積み重ねること、健康管理を意識することが不可欠です。焦って無理に引き出そうとすると逆効果になりかねないため、伴走者としての視点が求められます。
一方で、注意すべき落とし穴も存在します。たとえば、過度にゲーム依存に陥るリスクや、競技に固執しすぎて自己否定感を強めてしまうリスクです。これを防ぐためには、「勝つこと」だけを目標にせず、「楽しむ」「仲間と関わる」「挑戦する」という多角的な目標設定が重要になります。
このように、eスポーツは「正しく活かせば」引きこもり支援の強力な武器になります。本人の可能性を信じ、適切なサポートと環境を整えることで、ゲームの世界からリアルな社会への架け橋を築くことができるのです。
おわりに:子どもの未来を信じて
eスポーツは、かつて「ただの遊び」と見なされていた時代から進化を遂げ、いまや新たな社会参加のきっかけとして注目を集めています。特に、引きこもりや不登校といった課題を抱える若者にとって、eスポーツは「自分が必要とされる場所」や「仲間と関われる機会」として、大きな意味を持つようになってきました。
実際に、eスポーツは「自信を育てる」「仲間を得る」「自己表現の場となる」など、若者の"人間回復"に寄与する可能性を秘めた選択肢です。ゲームの中で得られた達成感や他者とのつながりが、やがて日常生活での一歩につながることも珍しくありません。
もちろん、ゲームには注意すべきリスクもありますが、それは正しい理解と周囲のサポートがあればコントロール可能です。そして何より重要なのは、「信じて見守ること」。
すぐに結果は出なくても、eスポーツを通じて得た小さな成功体験が、自信へとつながり、やがては社会へ踏み出す原動力になります。
大切なのは、結果を急がず、一つ一つの小さな変化を見守ること。本人だけでなく、支援者・家族・社会が一緒になって「信じて、待つ」姿勢を持ち続けることです。
子どもたちが「自分らしくいられる場所」を見つけること、それを周囲が支え、育てていくこと。eスポーツという新しい選択肢が、そんな未来を広げる一歩となることを、私たちは信じていいのではないでしょうか。
